大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 平成7年(ワ)11908号 判決 1997年5月19日

原告

庄司光宏

原告

松西登美男

右両名訴訟代理人弁護士

長山亨

長山淳一

被告

松原交通株式会社

右代表者代表取締役

飯尾源明

右訴訟代理人弁護士

竹林節治

畑守人

中川克己

福島正

松下守男

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は、原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

被告は、原告庄司光宏(以下「原告庄司」という。)に対し、六万一四四七円を、原告松西登美男(以下「原告松西」という。)に対し、五万五一三〇円を支払え。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  被告は、本社及び天美営業所においてタクシー事業を営む株式会社であり、原告らは、いずれも被告の天美営業所において、タクシー運転手として勤務している者である。

天美営業所には、自交総連松原交通労働組合(以下「訴外組合」という。)が組織されているが、原告らは右組合に所属していない。

2  原告らは、被告と賞与支給期毎に改めて賞与支給に関する合意をしなくても、以下の理由により、労働契約又は労働慣行により、年間合計八一万円ないし八〇万円の賞与を、平成六年一二月及び平成七年七月に少なくともその半額宛被告の賞与支給基準に従って支給を受けることのできる具体的な賞与請求権を有する。

(一) 被告は、原告らに対して、平成五年度の賞与支給において、年間合計八〇万円を、同年七月と一二月の二回に四〇万円宛分割し、これを基本に賞与支給基準に従って細目を計算して、賞与を支給した。

(二) タクシー運転手の賃金システムの中には、A型賃金及びB型賃金がある。

A型賃金は、月例賃金として、固定給、諸手当、歩合給、割増賃金等が支給され、年二回賞与・一時金等が支給される賃金システムである。B型賃金は、A型賃金の賞与・一時金を月割りにして月例賃金に含めて支給する賃金システムである。A型賃金は、B型賃金のうち賞与部分を留保し、一定の支払基準に従って、年二回に分けて支払うに過ぎず、賞与の総支給額は、当該企業又は営業所の年間営業総収入によって定まるものであり、個別的には、支払基準の設定方法如何で異なる金額となるに過ぎない。

被告は、原告松西に対して、昭和六三年六月二一日、原告庄司に対して、平成二年九月一五日、労働契約締結に当たって、口頭で次のとおり説明した。

(1) A型賃金について、被告では、賃金は売上(営業収入)の五八パーセントで、このうちほぼ四五パーセント相当額は、月例賃金として支給され、残りの一三パーセント相当額は、賞与の原資として留保され、毎年七月と一二月の二回に分けて被告の支給基準に従って支給され、よって、賞与は労働の対象としての賃金の後払い的性格を有する。

(2) 賞与は、前年度実績を前提に被告の賞与支給基準に従って支払われてきた。

(3) 賞与は、被告の業績の著しい悪化等特段の事由がない限り前年度実績を下回ることはない。

したがって、右労働契約締結に当たり、被告とA型賃金を選択した原告らとの間で前年度実績を下らない額の賞与を毎年七月と一二月の二回に分けて支給する合意が成立した。

(三) 以下の理由により、被告には、原告らタクシー運転手に対し、前年度実績を下らない額の賞与を毎年七月と一二月の二回に分けて支給することを内容とする労働慣行が成立している。

(1) 賞与の支給は、社会的経済的に一般化しており、労働者の生活設計に組み込まれている実状に照らせば、賞与は恩恵的給付ではなく賃金である。

(2) 前記(二)のとおり、被告のA型賃金システムにおける賞与は、実質的には賃金の後払いであって、労働の対価たる賃金に該当する。

(3) 前記(二)のとおり、被告は、原告らに対し、労働契約締結時において、年二回の賞与を支給し、その額は著しい業績の悪化等特段の事情がない限り前年度実績を下回ることはない旨の説明をした。

(4) 被告は、原告らに対し、原告ら入社後平成五年度まで前年度実績を下らない額の賞与を毎年七月と一二月の二回に分けて支給してきた。

(5) 従前、被告と訴外組合との間では、賞与支給に関する労働協約が締結されており、被告は、訴外組合の組合員に対してのみならず原告ら非組合員に対しても右労働協約に定められた賞与を支給していたところ、労働慣行の中には、このような労働協約も当然に含まれる。

(6) 被告には、賞与の支給基準を定めた賞与支給に関する内規(<証拠略>)が存在し、被告と訴外組合との給与及び賞与に関する協定書には、「給与及び賞与の改定について」と明記され、前年度実績を前提としている。

(四) また、次の理由により、被告には、原告らタクシー運転手に対し、訴外組合の組合員に対する賞与の増額分を、原告ら非組合員に対しても支給する労働慣行が成立している。

(1) 被告と訴外組合との間で、平成六年度以降、平成五年度実績に対して一万円を増額して賞与を支給する労働協約が締結されている。

(2) 松栄会は、訴外組合の組合員となっていない被告従業員の親睦団体であるが、被告が、訴外組合との協約により賃金・賞与の額を引き上げても、非組合員たる松栄会会員を無視するおそれがあったので、被告と松栄会との間で、平成三年九月四日付けで、被告が、非組合員を不利益に取り扱わず、組合員の賃金・賞与の増額を非組合員にも保証する旨合意がなされた。

(3) 原告ら非組合員は、訴外組合の組合員と同種労働に従事している。

(五) したがって、被告が、原告らに対し、年間合計八一万円、仮に右八一万円の金額が認められないとしても八〇万円の賞与を、平成六年一二月及び平成七年七月に少なくともその半額宛、被告の賞与支給基準に従って支給することが、原告らと被告間の労働契約の内容となっており、又は、労働慣行として確立することによって労働契約の内容として取り込まれていた。

3  被告は、原告らタクシー運転手各人の営業収入(水揚げ)が一定額に満たなかった乗務について、欠勤扱いにより賞与を減額したとして、原告庄司については、平成六年一二月分賞与の内金三万九一七九円及び平成七年七月分賞与の内金二万二二六八円の合計六万一四四七円を、原告松西については、平成六年一二月分賞与の内金二万八二三五円及び平成七年七月分賞与の内金二万六八九五円の合計五万五一三〇円を、それぞれ支払わない。

4  よって、労働契約または労働慣行による賞与請求権に基づき、原告庄司は、被告に対し、右平成六年一二月分未払賞与三万九一七九円及び平成七年七月分未払賞与二万二二六八円の合計六万一四四七円の、原告松西は、被告に対し、右平成六年一二月分未払賞与二万八二三五円及び平成七年七月分未払賞与二万六八九五円の合計五万五一三〇円の、各支払を求める。

二  請求原因に対する認否及び被告の主張(原告らの賞与を減額した理由)

1  請求原因1は認める。

2(一)  同2(一)は認める。

(二)  同(二)のうち、タクシー運転手の賃金システムの中には、A型賃金及びB型賃金があること並びに原告らがA型賃金を選択したことは認め、その余は否認する。なお、原告らの主張するA型賃金及びB型賃金の説明は誤りである。

(三)  同(三)(1)ないし(3)の事実は否認する。

同(4)は明らかに争わない。

同(5)のうち、従前、被告と訴外組合との間では、賞与支給に関する労働協約が締結されており、被告は、訴外組合の組合員に対してのみならず原告ら非組合員に対しても右労働協約に定められた賞与を支給していたことは認め、その余は否認する。

同(6)のうち、被告には、賞与支給に関する内規(<証拠略>)が存在し、被告と訴外組合との給与及び賞与に関する協定書には、「給与及び賞与の改定について」と記載されていることは認め、その余は否認する。

(四)  同(四)(1)は認める。

同(2)のうち、松栄会が訴外組合の組合員となっていない被告従業員の親睦団体であって、被告と松栄会との間で、平成三年九月四日付けで、合意が成立したことは認め、その余は否認する。

同(3)は認める。

(五)  同(五)は否認する。

3  同3は認める。

4  なお、被告が原告らの賞与を減額した理由は、以下のとおりである。

(一) 被告と訴外組合との間で、平成六年六月二一日、平成六年度の賞与について、前年度実績に対して一万円を増額すること並びにタクシー運転手各人の営業収入(水揚げ)が、土曜、日曜及び祝祭日については三万円未満の場合、平日については四万円未満の場合には、賞与の計算については欠勤扱いとして減額することを協定した。

(二) 訴外組合は、天美営業所において原告らと同種の労働者のうち四分の三以上の労働者を組織する組合であるから、訴外組合の締結した右協定は、労働組合法一七条に基づき、原告らに適用がある。

(三) したがって、右協定に従い、被告は、原告らの各人毎の営業収入が、右協定に定める額に達しなかった日について、賞与計算については欠勤扱いとして原告らの本訴請求に係る金額をそれぞれ減額したものである。

第三証拠

本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録の記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  争いのない事実

請求原因1、同2(一)、同(二)のうち、タクシー運転手の賃金システムの中には、A型賃金及びB型賃金があること並びに原告らがA型賃金を選択したこと、同(三)(5)のうち、従前、被告と訴外組合との間では、賞与支給に関する労働協約が締結されており、被告は、訴外組合の組合員に対してのみならず原告ら非組合員に対しても右労働協約に定められた賞与を支給していたこと、同(6)のうち、被告には賞与支給に関する内規(<証拠略>)が存在し、被告と訴外組合との給与及び賞与に関する協定書には、「給与及び賞与の改定について」と記載されていること、同(四)(1)、同(2)のうち、松栄会が訴外組合の組合員となっていない被告従業員の親睦団体であって、被告と松栄会との間で、平成三年九月四日付けで、合意が成立したこと、同(3)は、当事者間に争いがない。同(三)(4)は、被告において明らかに争わないから自白したものと見なす。

二  認定事実

右一の当事者間に争いのない事実及び証拠(<証拠略>)並びに弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

1  被告の賃金システムの中には、いわゆるA型賃金及びB型賃金があるところ、原告松西は、昭和六三年六月二一日、原告庄司は、平成二年九月一五日、被告に入社するに当たりA型賃金を選択した。

2  原告庄司と被告との間で入社時に作成された雇用契約書(<証拠略>)及び原告松西と被告との間で入社時に作成された養成乗務員に関する契約書(<証拠略>)には、賞与に関する条項は記載されていない。

被告の就業規則(<証拠略>)は、賃金支払いに関する一切の事項は別に定める給与規定によるとし、賞与に関する定めをおいていない。

3  A型賃金に関する給与規定(<証拠略>)では、基本給(日給)・乗務手当・皆勤手当・無事故手当・愛車手当・家族手当・通勤手当からなる固定給と歩合給(能率手当)等で月例賃金が構成されるものとされている。A型賃金における賞与については、右給与規定に定めがないが、被告の賞与支給に関する内規(<証拠略>)は、第一、二条において、タクシー運転手の賞与支給金額及び支給期日に関しては、被告及び訴外組合の代表六名をもって協議し決定する旨規定し、第三条以下の細目において右賞与支給額の配分方法等について定めている。

従前、被告と訴外組合との間で賞与支給金額等について協議をなし、合意を見たときは、賞与支給金額等に関し、右両者間で協定書(<証拠略>)の形式で、労働協約を締結し、被告は、右賞与支給金額を、右内規及び各支払期毎に作成した補則(<証拠略>)に従って、訴外組合の組合員に対してのみならず、原告ら非組合員に対しても支給してきた。

被告は、原告らに対し、原告ら入社後平成五年度まで前年度実績を下らない額の賞与を毎年七月と一二月の二回に分けて支給してきた。

4  これに対し、B型賃金に関する給与規定(<証拠略>)では、原則(一乗務営収四万六〇〇〇円以上の場合)として、営業収入(「営収」、「運輸収入」、「水揚げ」あるいは「売上」ともいう。)に対する賃金の割合は、勤続年数に関わらず、全員一律に合計六〇パーセントと決められており、右合計六〇パーセントが、支給の配分上、月例賃金(その名目としては、基本給・歩合給・深夜手当・残業手当で構成される。)四五パーセント、一時金一五パーセントに振り分けられている。したがって、一時金(賞与)について、その支給金額は、営業収入に従って機械的にその金額が決定される。また、一時金(賞与)は、四か月毎に計算支給される。

5  原告ら訴外組合に加入してない被告従業員が加入している親睦会である松栄会と被告との間で、平成三年九月四日付けで、「松栄会と組合との区別・差別を一切しない」との合意(以下「被告と松栄会の合意」という。)がなされた(<証拠略>)。

6  平成六年六月二一日、被告と訴外組合との間で、以下のとおり、賞与に関する協定(労働協約)が成立した(以下「本件協定」という。)。

(1)  前年度実績年間八〇万円に対し、一万円を増額する(以下「増額条項」という。)。

(2)  タクシー運転手各人の営業収入(水揚げ)が、土曜、日曜及び祝祭日については三万円未満の場合、平日については四万円未満の場合には、賞与の計算については欠勤扱いとして減額する(以下「減額条項」という。)。

(3)  賞与の計算については、平成六年五月二一日より実施する。

7  平成七年七月の賞与支給時において、天美営業所に在籍する正規従業員六四名のうち、A型賃金の下で原告らと同様年二回の賞与の支給を受ける乗務員は四九名であり、B型賃金の下で乗務する乗務員は一五名であった。そして、A型賃金の乗務員のうち、三七名が訴外組合に加入しており、原告を含む一二名の非組合員は松栄会に加入していた。

被告は、訴外組合が天美事(ママ)業所において原告らと同種のA型賃金の労働者のうち四分の三以上の労働者を組織する組合であるとして、労働組合法一七条に基づき、減額条項を含めた本件協定全体を原告ら非組合員にも適用して、原告らの各人毎の営業収入が減額条項に定める額に達しなかった日について、賞与計算については欠勤扱いとして、原告らの本訴請求に係る金額をそれぞれ減額した。

以上の事実が認められる。

三  請求原因2(二)(労働契約による具体的賞与請求権の発生)について

1  請求原因2(二)のうち、A型及びB型賃金の区別があること並びに原告らがA型賃金を選択したことは、当事者間に争いがなく、原告らは、概ね同請求原因事実に沿う供述をする。

2  しかしながら、右二認定事実によれば、A型賃金の適用を受ける者については、労働契約の内容として、賞与額が営業収入の一定割合として機械的に算定されるのではなく(これに対し、賞与額が営業収入の一定割合として機械的に算定されるのはB型賃金である。)、別途、被告と訴外組合の間に締結される労働協約によって、具体的にその額が決定されるということができる。したがって、A型賃金の適用を受ける原告らについては、賞与支給の根拠を労働契約に求めることはできない。

なお、原告らは、被告が各労働契約の締結に際し、原告らに対し、口頭で、前年度実績を下らない額の賞与を毎年七月と一二月の二回に分けて支給する旨の説明をしたと主張するが、これに沿う原告らの供述は裏付けを欠き、採用することができない。

3  したがって、原告らが労働契約により被告に対し具体的賞与請求権を有するというべき根拠はない。

四  請求原因2(三)、(四)(労働慣行による具体的賞与請求権の発生)について

1  原告らの主張

原告らは、請求原因2(三)、(四)の事実によれば、被告が、原告らに対し、年間合計八一万円ないし八〇万円の賞与を、平成六年一二月及び平成七年七月に少なくともその半額宛、被告の賞与支給基準に従って支給することが、原告らと被告間の労働慣行として確立していた旨主張する。

2  具体的な賞与請求権及び労働慣行の成立要件

賞与について、労働協約、就業規則、労働契約の各定めあるいは労働慣行などにより、支給時期及び額ないし計算方法が決まるなど、右の各支給条件が明確な場合には、労働者は使用者に対し、具体的な賞与請求権を有するというべきであるが、右定め等がなく、支給条件が明確でない場合には、労働者は右の具体的な賞与請求権を有しないと解するのが相当である。

また、労働慣行は、同種行為又は事実が長期間反復継続され、当事者に継続的な行為の準則として意識されたことによって、当事者の明示又は黙示の意思を媒介とし、法律行為の内容を形成することによって初めて法的効力を持つに至るものであって、当事者の合理的意思に反しては成立しえないものであると解するのが相当である。

3  請求原因2(三)について

原告らは、請求原因(三)(ママ)(1)において、賞与の支給は、社会的経済的に一般化しており、労働者の生活設計に組み込まれている実状に照らせば、賞与は恩恵的給付ではなく賃金であることを主張し、同(2)、(3)については、右三のとおり、同事実を認めるに足る証拠はないが、同(4)ないし(6)について、前記一、二のとおり、被告は、原告らに対し、原告ら入社後平成五年度まで前年度実績を下らない額の賞与を毎年七月と一二月の二回に分けて支給してきたこと、従前、被告と訴外組合との間では、賞与支給に関する労働協約が締結されており、被告は、訴外組合の組合員に対してのみならず原告ら非組合員に対しても右労働協約に定められた賞与を支給していたこと、被告には賞与の支給基準に関する内規(<証拠略>)が存在し、被告と訴外組合との給与及び賞与に関する協定書には、「給与及び賞与の改定について」と記載されていたことを認めることができる。

しかしながら、以下のとおり、右のような事情を考慮しても、そのことから直ちに、原告らの主張する具体的な賞与請求権を基礎づける労働慣行の存在を認めることはできない。

すなわち、原告らのA型賃金における賞与については、前記二認定事実によれば、就業規則及び給与規程に定めがなく、賞与支給に関する内規においても、具体的金額が定められておらず、賞与支給金額等に関しては、被告及び訴外組合で協議し決定する旨規定しており、賞与支給条件が明確でないこと、現実にも、被告における賞与は、毎年度、被告と訴外組合とで協議して、協定書を作成して決定されてきたのであって、慣行によってではなく、その時々の労使の交渉によって決定されていたこと、右のようにして決定される賞与は、対象期間中の企業の業績等により支給の有無及び額が変動することが予定されていることが認められ、右事実に加えて、原告らにつき、前年度実績による賞与請求権が具体的に発生していると解するのは、当事者間の合理的意思に反するものであることからすれば、被告において、従前前年度実績を下らない額の賞与が支給されてきたからといって、原告らの主張する具体的な賞与請求権を基礎づける労働慣行の存在を認めることはできない。

4  請求原因2(四)について

前記一、二のとおり、被告と、訴外組合との間で、平成六年度以降、前年度実績に対して一万円を増額して賞与を支給する労働協約が締結されたこと、被告と松栄会の合意がなされたこと、原告らが訴外組合の組合員らと同種労働に従事していることが認められる。

しかしながら、前記二認定事実によれば、右労働協約(本件協定)においては、右賞与の増額条項と減額条項が一体として定められていることが認められ、被告と松栄会の合意は、「松栄会と組合との区別・差別を一切しない」という極めて抽象的なものであって、組合員らの賞与の増額条項を非組合員に対して保証したものとも、右合意によって具体的な賞与請求権が発生するものとも解することができないこと、これまで、被告において減額条項を適用せず増額条項のみを適用する慣行が存在したものと認めることができないこと、減額条項を適用せず増額条項のみを適用するのは、被告及び訴外組合の明示の意思に反することが認められることからすれば、原告らの主張する一万円の増額部分を含めた具体的な賞与請求権を基礎づける労働慣行の存在を認めることができない。

5  したがって、原告らに具体的な賞与請求権を発生せしめるような労働慣行が存在することを認めることができない。

五  以上の次第で、原告らの請求は、その余の点について判断するまでもなく、いずれも理由がないので失当として、これを棄却し、訴訟費用の負担につき、民訴法八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 中路義彦 裁判官 西﨑健児 裁判官 仙波啓孝)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例